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長者番付を壊して村の財政を救おう!

『尾崎村誌』をぼんやり眺めていたところ、長者番付がありました。

明治24年(1891)に調査された「尾崎村四ケ村地租額十五円以上担税者」をまとめたもので、地租を15円以上納めたパワフル人間の番付が掲載されています。地租は固定資産税の前身のひとつで、土地に対してかけられる税金です。

尾崎村四ケ村地租額十五円以上担税者

当時の尾崎村には、尾崎(おさき)・新屋(あらや)・平田森(ひらたもり)・町居(まちい)の4大字があり、15円以上を納めた人はそれぞれ14名・16名・16名・22名でした。

大字別担税者・地租額

担税者が突出して多い町居は、地租額でも番付全体の41.5%を占めます。6名いる三役のうち、大関2名・小結2名が町居在住です。


さて、もし町居が尾崎村から消えてしまえば、村の財政はどうなるでしょうか。どう考えても大変です。そして、実際大変になっています。

明治28年(1895)、町居は尾崎村から竹館村に分割・編入され、さらに34年(1901)には竹館村からも剥がれて町居村として独立しました。分割後に発生した尾崎村の難儀は、時の内務大臣・板垣退助に宛てた上申書から窺い知ることができます。

南津軽郡尾崎村ハ分割処分之結果ト共ニ苛酷ノ課税ヲ負担シアル事ハ曽テ以来屢上陳スル処(中略)負担之重キニ泣カントス(中略)民苟モ疲弊セバ国家何ヲ以テ安寧ヲ維持センヤ(中略)尾崎村ハ此之如キ課税之負担ナラヲ以テ民悉ク困セサルナシ

(葛西豊造, 八木橋善一, 青森県南津軽郡尾崎村: 「上申書」明治29年(1896)4月20日

これを解決するには、長者番付を破壊し、都合のよい地租額を捏造する必要がありそうです。

姓名に含まれる漢数字を利用してみましょう。尾崎には「八木橋」姓が多く、これを使わない手はありません。

つまり、担税者の姓名が数にまつわる文字を含んでいるとき、その数だけ地租額を増してもよいことにすれば、尾崎村の財政にも一筋の光が差すはずです。

例えば、尾崎の八木橋八十司氏は60円を納めていますが、姓名に「八」「八十」があるため、88円も増すことができます。新たな地租額は148円となり、町居の奈良忠之助氏(138円)を凌いで大関に昇進します。

一方、新屋の斎藤半次郎氏(16円)は、「半」のデバフがかかって8円になってしまいます。功罪ありそうです。ルールが分かったところで、早速やってみましょう。

八木橋魚店(尾崎)

結果

!?


新屋の葛西万左エ門氏(18円→10,018円)、平田森の斎藤万吉氏(21円→10,021円)がそれ以外の全てを無にしています。先述のデバフが効いた人間が斎藤半次郎氏の一名のみであったことも功を奏し、町居を除いた新尾崎村では、もともと納められていた地租額から14倍にも膨れ上がりました。

これで尾崎村の財政問題は解決です。尾崎にあっても、八木橋姓六名のほか、長内治五兵衛氏などの活躍で565円が719円になりました。概ねこれくらいの上がり幅を想定してたんだけどな……。

なお、明治24年度における内務省鉄道庁予算のうち「俸給及諸給」は22,349円90銭ですから、尾崎村の高額担税者でそのほとんどを賄えることになりますし、町居を含めば上回ります。

町居もいい感じです。1094円→1308円と、そこそこ増えています。竹館村に編入された町居も、経費の負担割合が尾崎村時代よりも増えていることを訴えていましたから、これでなんとかなるでしょう。

「大字町居ハ竹館村ニ編入以来分割以前ノ経費負担額ヨリ重税ヲ受ケルノ事実ヲ発見シタリ」
(竹村精一ほか: 「青森県南津軽郡尾崎村大字町居境界変更ノ件復旧ノ儀ニ付誓願明治29年(1896)5月)

 

最後に、新たな地租額を反映した番付表を見ます。

斎藤万吉・葛西万左エ門の両氏がぶっちぎりで大関の座を手にしています。ここまで引き離せば横綱でもいい気はしますが、まあよしとしましょう。

88円増で関脇に昇進した八木橋八十司氏を筆頭に、八木橋姓がよく上がっており、目論見通りという感があります。地租額が半減した斎藤半次郎氏も、考えようによっては納める税金が少なくなって喜んでいるかもしれません。

みなさんも、村の財政に困ったときは長者番付を壊してみてください(終)

 

参考文献
成田末五郎編(1956)『尾崎村誌』尾崎村文化研究同志会
八木橋正隆(1994)「吾家に残る古文書」平賀郷土史研究会『平賀郷土史』第9号
国立公文書館デジタルアーカイブ「各省予算報告書・明治二十四年度歳入歳出総予算」 

https://www.digital.archives.go.jp/file/2525911.html

(2024-05-20閲覧)

 

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