ついに。やっと。ようやく。満を持して。大鰐線の電車が走らなくなるらしい。すごい。よくここまで粘りました。運行休止後、困る己の姿が全く想像できません。大鰐線自体は好きですが、最寄駅が大鰐線にありながらほとんど乗っておらず、その休止を悲しむ権利がありません。大鰐線を最後に使った日がいつなのか、はっきりと思い出せないことからも確かです。
大鰐線の使いかた
もはや手遅れですが、大鰐線をどのように使えば便利なのか、少し考えてみましょう。
いきなり身も蓋もない話をすると、大鰐線に乗ることなく沿線を移動する選択肢は、なかなか豊富に用意されています。大鰐・弘前間はJRや弘南バスがあり、所要時間はバスと大鰐線でどっこいどっこい。大鰐線が遅過ぎです。大鰐・石川間では三者がほとんど並行しています。大鰐線が特に便利と言えるのは、目の前に駅がある石川のプールくらい。
石川でバスが離れると、松木平までは競合がないように見えます。石川のひとつ弘前寄りにある義塾高校前の駅は、通学の便宜を図り、朝夕はメニメニ学生で混雑してもおかしくありませんが、アー!近くにJRの石川駅がありますよ(泣)JRと大鰐線の石川駅は離れており、義塾高校前駅の真下にJRの駅があります。弘前駅、また以遠より学生を詰め込む仕事はJRに譲っています。ざんねん。それでも、弘前市南部からの輸送は大鰐線が担っており、ある程度の混雑はあります。
つまり、真の単独区間は義塾高校前~松木平ということになります。大沢地区の小さな人たちは石川の学校へ通うため、津軽大沢と石川の間には極めてささやかなラッシュがあります。大沢の町内から石川への道がコチャコチャしており、ここばかりはバスより電車に軍配が上がっている形。でも、駅前を集合場所にして石川学校までのスクールバスを転がしたら、全てが解決しそうな気もします。大沢は駅近にトマトの直売があってオススメ。
津軽大沢の次は松木平ですが、ここからバスが元気に転がり始めます。松木平・小栗山間に弘南バスの弘前営業所があり、弘前駅行きの便がたくさん出ています。途中の三中校前停留所と、近くにある弘前学院大前駅の本数を比べれば、悲しくなる一方。これ以上はやめておきましょう。しかもバスは弘前駅に行けるときた。弘前学院大学駅の待合室を兼ねた生協の店内には、弘前市中心部へはバスが便利である旨の案内があります。親切!
いっとき、千年駅周辺の住宅地を巡る乗合タクシーの実証運行がありました。千年駅から広野・安原・泉野といった地区を転がり、千年駅に戻ってくる経路です。電車の発着に合わせて運行し、乗り継ぎ利用で運賃がお得になりました。
ただ、それを使って大鰐線に乗り継いだところで、行けるところが中央弘前なんですよね。その後、運行経路の中心たる安原と健生病院・弘前駅・城東方面を結ぶバス路線が開設されました。特別な運賃体系で分かりやすくするおまけつきです。いいね。
聖愛中高前という駅がありますが、あんまり前ではありません。1km弱離れています。むしろ弘前実業高校の方が近い。近隣には他にも柴田学園高校や弘大附属小中学校があり、大鰐線が輸送に活躍しそうですが、しません。大鰐線をガン無視し、朝には各地から聖愛高校・附属小学校を目掛けて弘南バスが飛んできます。弘前駅はバスを待つ学生でごった返します。
弘南鉄道では、弘南線沿線からこの辺りの学校に通う学生を対象に「ぴょん2定期」という定期券を発行し、弘前東高前駅から聖愛高校までのバスに乗り継ぐことができました。2022年度末に廃止されましたが、大鰐線は蚊帳の外。弘南線の乗車区間をひと駅伸ばすか、置きチャリで通うまでです。
弘高下は、朝夕ちらほらと学生があり、駅前にはぽつぽつ自転車が駐められています。弘前高校は坂を登ってすぐの所にあるため、アクセスはなかなかよさそう。
中央弘前の場所がよくない。弘高下付近から土淵川に沿って走ってきた電車は、城下から羽州街道へ通じるBIG商店街・土手町に片足突っ込んだ程度の地点で突然停まり、乗客はなんともいえない谷底に放り出されます。近年ロータリーが整備され、少しはよくなりました。土手町の通りに直結する通路か駅舎なら少し違ったのかもなあ、と思うことはあります。
そもそも中央弘前自体がよくないといわれれば、頷かざるを得ません。大鰐線は松木平の辺りから弘前駅へ向かう計画であったところ、用地買収に難儀したため中央弘前を終点とした経緯があります。弘前駅~城東地区の発展著しく、中央弘前駅周辺のパワーが低下して久しい今、わざわざ大鰐線に乗る理由探しには難儀します。
先述した千年駅周辺の乗合タクシー実証運行と同時期、中央弘前・弘前駅間の乗合タクシーも実証運行されていました。これは結構便利で何度か利用しましたが、使用されたワゴン車が満席になるほど乗っていたことはありませんでした。逆に、電車にワゴン車の定員より少ない人しか乗っていない、ということはよくあります。
実証運行終了から数年が経ち、駅前ロータリーの整備に伴い中央弘前駅前バス停が(ロータリーではなく路上に)設置。おおむね1本/時の通過があり、最低限の便数が確保されています。中央弘前・弘前間は、歩けば20分強です。
医療機関にかかる時、大鰐線は使えるでしょうか。大鰐病院は、弘前・大鰐・碇ヶ関を結ぶバス路線沿いにあります。大鰐駅からは遠め。石川駅前には、くどう内科消化器・肝臓クリニックがあり、これにかかるなら電車とバスが使えます。
弘前市内の大きな病院には、総合医療センター・大学病院・健生病院などがあります。国立と市立を併せた総合医療センターは弘高下が最寄ですが、行き来には坂を歩かなければなりません。センターの目の前をバスがしこたま転がり、敷地内に乗り入れる便も存在しています。
大学病院は、中央弘前で降りれば行けそうです。中央弘前の駅から土手町の通りに出て、蓬莱橋バス停から土手町循環に乗れば、大学病院構内まで連れていってくれます。
ただし、簡単には帰って来られません。土手町循環は、弘前市中心部を10分間隔でグルグル廻っているSUPERお便利路線です。問題は、土手町が一方通行ゆえ、片廻りのみであることです。他の路線も、バスターミナルや弘前駅発は土手町を、ターミナル・駅行きは中央通りを主に経由します。大学病院や市役所などから中央弘前へ戻るには、ほとんどの場合いったん弘前駅ないし弘前バスターミナルを経由する必要があり、わざわざ大鰐線で中央弘前に出るメリットが削がれています。
健生病院は、弘南線の運動公園前駅の南にあります。弘前駅・健生病院・安原を転がるバスに千年駅まで来てもらえれば、まあ、というところ。来てもらえれば。来ませんよ。
大鰐線を無理やり使う
なんだか書いててしんどくなってきました。ものすごい勢いで書けていることが、余計にしんどさを増します。粗探しをしてあげつらうわけではなく、見えてる地雷をひとつひとつ丁寧に踏むだけです。
これ以上考えても無駄です。なるようにしかなりません。こうなったら、もうやけです。大鰐線しか使えない状況を無理やり考えて、その通りにしてみましょう。
①大鰐線の駅が近いところで
②大鰐線以外の手段で移動できず
③徒歩では帰りづらい距離
のスポットを考えます。弘前市街は徒歩や自転車でもよいため不適、大鰐温泉はJRで帰れるため不適、石川の花の湯は吹雪の中30分歩いた苦い記憶が甦るため不適……。
絞り込みを進めると、その選択肢はほとんどひとつに定まってきました。鯖石ドライブイン・通称鯖ドラです。
鯖石駅から徒歩10分弱のところにあり、ドライブインという名前が示す通り国道7号線沿いに建っています。ドライブインを名乗る割には、お酒のメニューがやたらに充実していることで知られています。個人的には半ラーメンが大盛りにできる意味不明なセットが好き。ここで飲酒をして、大鰐線で帰ってこようという目論見です。
近くには弘南バスの上鯖石バス停もありますが、弘前方面の終車は17時23分。昼間なら自転車チリンチリン、大鰐線ガタゴト、弘南バスプップ~ですが、夜ごはんをここで摂るならば、バスで帰ることはできません。また、お酒を飲むので自転車もダメ。パトカーウ~ウ~。
さらに、歩きで帰れば2時間半はかかります。ほどよく酔ったゴキゲン状態に、晩秋の夜をひたすら歩くという行いはあまりにも堪えます。これはもう、大鰐線に乗るほかありません。
アレ!?もう大鰐線を離れています。電車に間に合いませんでした。大鰐線は中央弘前を毎時30分、バスはターミナルを毎時00分に出るため、電車を逃したらバス停、バスを逃したら駅を目指すと吉です。出鼻をくじかれても、スペアの鼻があって安心。弘前方面の終車時刻は過ぎていても、碇ヶ関行きはまだあります。
上鯖石で降車。ドライブインまでの道のりは鯖石駅よりも短く、同じ国道上ですから容易にアクセスできます。どんどん大鰐線のうれしいポイントが削がれていく。なんだこの記事。
バス停から5分と歩かずに鯖ドラ着。
黒石市二双子・奥瀬商店で作っているお豆腐を頼みました。奥瀬商店は二双子温泉(二双子共同浴場)の入浴券を売っているため、何度か出入りしています。
鯖石18時58分発の大鰐行きがお店の脇を通過しますが、ひとりも乗っていません。すごい。いつもこんな感じです。
豊盃の「ん」を呑みます。全てをじょっぱりにするお猪口でいただきます。そういえば、12/1にじょっぱりが復活します。うれしい。
亀吉ものみます。こんな状態で12kmも歩いて帰っては、途中で行き倒れること間違いなし。おとなしく電車に乗りましょう。麺食べて帰ります。
国道から脇道に入って鯖石駅へ。特に案内はありません。
案内板を立てたところで、いったい誰が案内されるんだ、というところではあります。石川や弘前学院大前(西弘前)など、案内板に従えば辿り着ける駅も存在しています。
20時35分発の中央弘前行きは、案の定すっからかんでやってきました。こんな時間に郊外から都心へ行く電車が空いているのは当たり前ですが、それにしても空いています。
金魚ねぷた列車やりんご畑付近での徐行運転など、観光客向けのサービスが取り上げられることの多い大鰐線ですが、もちろん沿線住民向けの施策も怠ってはいません。大鰐線生活応援きっぷ「わにサポ」が展開されています。
往路利用の下車時にわにサポを受け取り、施設で捺印してもらえば、復路の運賃が100円になる仕組みです。車内の掲示では、中三弘前店でわにサポを提示すればポイントが3倍になる旨が案内されていますが、もう中三弘前店はありません。
結局、最寄り駅で降りるまで誰も乗りませんでした。この時間帯の大鰐線は、いつもこんな調子です。
おしまい
最後までネガティブ全開なしょんぼり記事になってしまいました。でも、無理に便利な点を捻り出して、妙にポジティブな内容にするのは嫌です。そんなに便利な点を挙げられるなら、もっと使うべきだったし、使えたはずです。
大鰐線の沿線は開けていて、特に中央弘前・千年間は家々の間を縫うように走ります。人はたくさん住んでいます。車もたくさん走っています。バスも多くの人を運んでいます。大鰐線だけが何もできずに浮かんでいます。地域から弾き出されているような気さえしてくるのです。こんなに人がいるのに。賑やかなのに。電車だけがぼんやりしています。運行休止の報を見聞きしたとき、ああ、やっと許されたんだ、と思いました。
自宅の窓を開ければ聞こえてくる大鰐線の音は心地よいものですが、沿線へのBGMサービスは電車本来の仕事ではありません。ほとんどからっぽの電車が行ったり来たりして発せられているならば、いっそ鳴り止んでくれと思っていました。そのため、こんどの運行休止発表には納得し、安心さえしています。
すごくじめじめしちゃった。中央弘前駅近の宿泊施設は結構ありますし、大鰐温泉に泊まるのもよいです。みんなも大鰐線で鯖ドラから帰ろう~(おわり)